第5回遺伝子組換え作物の共存に関する国際会議 GMCC11 (10月 カナダ(バンクーバー)) 参加報告 (農業と環境 No.140 2011.12)
開催地のバンクーバー市は、2010年に冬季オリンピックとパラリンピックが開催され、2011年には5年連続で世界一住みやすい都市にも選ばれています。知人からも治安が良いことや交通の便も良いことなどを聞いていましたので、出発に際しては、それほどの心配もなくリラックスして準備をすることができました。また、当地ではバンクーバー国際空港から会場近くのウオーターフロント駅までスカイトレインとよばれる無人(コンピュータ制御)の列車が12分おきに運行されています(写真1)。一人当たり 8.75 カナダドル(約 645 円)の料金で、約30分で着くことができ、とても快適で便利でした。バンクーバーは国際港湾都市であり、中心街には日本料理、韓国料理、インド料理、中華料理などのさまざまなレストランが軒を連ねていました。ただ、開催期間中の天候は悪く、紅葉も多くは散っているばかりか、みぞれも降るなどとても寒く、周囲の山々の一部はすでに積雪で白くなっていました(写真2)。
写真2 会場周囲の風景
この会議のメインタイトルである共存 (Coexistence) とは、ヨーロッパにおいて農家が有機作物栽培、従来作物の栽培、そして遺伝子組換え(GM)作物の栽培を行う際に、それぞれが互いに経済的に成り立つような栽培技術を確立するとともに、法的制度を整備し、これらを自由に選択できるように備えようという考えです。また、この会議(GMCC)は、GM作物が流通した際に、ヨーロッパの食料・飼料供給チェーンをどのようにして新たな規制と適合させるか? また、世界規模で生じる市場主導型の共存と適合させるために必要な要件は何か? これらを探るために、農学、経済学、法律など学際的な観点から協議することを目的に設立されました。
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第1回会議は、2003年にデンマークで開催され、その後2年おきに、2005年にフランス、2007年にスペイン、2009年にはヨーロッパを離れてオーストラリア、そして今回はカナダでの開催となりました。
松尾は、2007年にスペインのセビリアで開催された第3回会議から連続して参加し、米村は、第3回会議と今回の第5回会議に参加しているため、共存研究に関する国際的な流れを肌で感じることができました。EU(欧州連合)では、2002年からの第6次フレームワークプログラム(FP6)の期間に「共存」に関する大きな研究プロジェクトが行われました。それらは、(1) SIGMEA (欧州農業へのGM作物の持続的な導入に関する研究)、 (2) Co-Extra (作物の供給チェーンにおけるGM作物と非GM作物との共存とトレーサビリティ技術の開発)、 (3) TransContainer (GM植物の効果的で安定した生物学的封じ込めシステムの開発)の3つです。これらのプロジェクトは、2009年までにすべて終了しましたが、私たちが参加し始めたころの第3回、第4回の会議までは、これらのプロジェクトで得られた成果を反映した自然科学的研究が数多く発表されていました。
オーストラリアで開催された第4回会議(GMCC09)では、世界30か国から約220名の参加がありましたが、今回は、20か国から約160人と一回り小さくなった感がありました。
開会あいさつでは、カナダ農務農産食品省の Steve Tierney 氏と米国農務省の Cindy Smith 氏が世界の食糧問題を解決するための明らかなこととして以下の点を挙げました。それは、食糧の生産を増やし、その食料をもっとも必要とする場所に届けることが必要であり、それを効果的に行う唯一の方法が 「生産者による農業生産方法(慣行栽培法、有機栽培法、バイオテクノロジーなど)の選択」 を促進することで、そのための技術と革新が重要であるという内容でした。
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また、基調講演では、FAO(国際連合食糧農業機関)の Ann Tutwiler 審議官が、世界の食糧安全保障の主な課題、主要生産物の需給動向、将来の生産力への制約として考えられることや今後の農業の成長を持続的に達成する方法を強調し、世界の飢饉(ききん)を減らすための解決法とシステムを検討し共存させていく必要性を強く述べました。その後、世界各国にGM作物の栽培が広がっている状況やそれによるベネフィットについてのさまざまな報告がありました。
本会議では、共存政策を実施するための経済的課題、法的課題や賠償責任など、社会科学的な論議が多く、これまで私たち参加してきた GMCC 会議とは若干異なる印象を受けました。組換え生物に対する規制が必要以上に厳しい場合には大きな経済的損出が生じることを指摘する講演も多くあり、その内容は、LLP(未承認GM作物の低頻度混入)に関する問題でした。これは新規GM作物の生産国と輸入国の認可時期のずれによって生じるもので、これらを防ぐためにも国際間での迅速な認可と同調性が強く求められていました。また、GM作物の認可(各国さまざまな方式がありとても複雑である)については、発展途上国では重荷になるため、OECDのうち5か国で認可されたものであれば簡易な審査で通すことができるようにするベトナムの取組みは注目されました。GM作物の有用性については松尾も米村も強く認識していますが、このような流れに、わが国はどのように 対応していくのか、さらに世界的な自由市場の中での日本の立場の厳しさを感じました。そして、以上のような状況を反映して、GM生物の開発企業やバイテク種子業者、貿易協会などから、会議運営のサポートや多くの参加がみられました。彼らにとっては今回の会議の内容が今後の世界戦略を考える上での重要な情報になるためと思われます。
一方で、これまで主流であった営農システムにおける交雑や混入に関する自然科学的研究は少なくなり、関連会議で発表されるにとどまりました。しかし、ほ場内外への遺伝子の拡散に関しては、これまでの花粉飛散だけでなく、埋土種子を介しての拡散の研究も進んでいるほか、細胞質雄性不稔系統のトウモロコシを用いて花粉飛散による遺伝子拡散を防止する効果をほ場で検証するなど、これまでのプロジェクトにおける研究成果を踏まえ、GM作物を栽培した場合の遺伝子の総合的な拡散過程を把握し抑制する技術の開発研究が進んでいることを感じました。
写真3 米村のポスター発表
ポスター発表は数が少なかったものの、「GM作物は地球温暖化防止に貢献するか」 などの発表もありました。松尾と米村は、それぞれ "Persistence of feral canola population affected by road management along transport route around seaport Japan" および "Regional-scale estimation of cross-pollination rates between GM and non-GM rice" というタイトルでポスター発表を行いました。食事の時間と発表時間が重なり、来訪者や見る人があまり多くはなかったのは残念でしたが、持ち込んだ論文の別刷りや資料はかなりなくなっていました(写真3)。
EUにおける共存に関する3つのプロジェクトの後継プロジェクトは、PRICE( PRactical Implementaion of Coexistence in Europe : 欧州において実践的に共存を推進するための研究 ) とよばれ、来年から新共存プロジェクトとしてミュンヘン工科大学の Wesseler 教授がリーダーとなって開始される予定です。2年後の第6回 GMCC はポルトガルで開催されますが、新たなプロジェクトの成果や世界のGM作物をめぐる情勢により、次回の動向がどのようになるかが注目されます。
(生物多様性研究領域 松尾 和人
大気環境研究領域 米村 正一郎)
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