2012年5月16日水曜日

現代社会と心の病 野村 総一郎 氏


精神医学の大幅な進歩に伴い多軸的診断の方向へ

──深刻化する青少年犯罪の問題や、マスコミなどでも取り上げられている「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」、「ひきこもり」など、最近、心の病が非常に話題を集めています。先生のご著書『「心の悩み」の精神医学』を読ませていただいたのですが、まるで現代を別の切り口から見ているような感を覚えました。

その一方で、私がこれまで抱いていた精神の病や医学のイメージとは、随分と様子が変ってきているような気がしますが…。

野村 近年、精神医学は大幅に進歩し、世間で思われているよりも、精神科医がずっと役に立つ存在になってきたんですよ(笑)。かつては医学界内からも、「精神医学は学問としては面白いけれど、治療� �いうことになるとちょっと…」などといわれていましたからね。

──いえいえ、私は昔から社会に貢献している医学だと認識しておりました(笑)。

変った、というのは、具体的にはどのように?

野村 一言でいえば、学問的な進歩と医療システムの整備がうまく噛み合った結果、とでもいいましょうか…。

まず、神経医学や脳科学の大幅な進歩により、脳内物質のコントロールが可能になり、薬も変りました。また、診断技術、計測技術の発達や、ITの発達も随分と精神医学の進歩に影響を及ぼしているんですよ。

──心の治療発展の陰に、科学ありというわけですか。

野村 ところが一方で、面談などを重視する日本の伝統的心理療法が現在、欧米などでも再評価され始めたんで すよ。

──進歩しながらも、反面、過去の治療法が見直されている…?

野村 これまでは心理学的見地か、それとも精神医学か、どちらかに偏ることが多かったのです。しかし現在では、これらを2本立てでやっていこうという考えが広まりつつあります。多軸的に患者に向き合うことで、精神医学の治療力も随分高まっているんですよ。

──さまざまな治療法が共存できるとは!ここが他の医学とは違うところですね。


"ショック状態" HSC

精神の病に対する人の意識なども変りつつあるんでしょうか。

野村 もちろんです。1995年に精神保健福祉法が施行され、精神障害者をケアするシステム整備が急速に進んだこともあって、以前に比べると、随分人権意識が高まってきました。


心の病にかからず現代社会を生き抜く秘訣とは?

──ところで、心の病のパターンも以前とは随分変ってきているように思うのですが…。

野村 顕著な例でいえば、「うつ病」が増えて、「対人恐怖症」や「赤面症」などの症状が減っています。

──増える病気がある一方で、減っている病気がある…。その理由は?

野村 現代は現代なりに、昔は昔なりに、社会情勢や世相とともに人々の悩みも違ってきますからね。かつて「社会」は、絶対的存在でした。だから、「社会に適合したい、だけどできないかもしれない、どうしよう」と悩む人が多かった。そういった悩みが対人恐怖症の要因となったわけです。

それに対し、現代は原理原則が喪失しており、いったい何を基� �にすれば良いのかさえ見えてこない時代です。私が実感しているところでは、「過渡期の時代の混乱」とでもいいましょうか…。となれば、人の悩みも昔とは変ってきますよ。

──確かに現代は、規範も何もあったものではない、自由や個性を重んじる世の中ですからね。

野村 自由で選択肢の多い社会も、裏を返せば、みんな自信をなくし、自分の生き方に迷いが生じているというわけです。

しかし、そうはいっても、心の病は時代とともに形を変えているだけで、なくなることはない、というのも事実です。うつ病、摂食障害、ひきこもりなんていう症状が、年齢や社会的立場に関係なく急増しているのが現代です。

──なるほど。いつの時代にも心の悩み、病は付いてまわるものなのですね。

� �に、現代の「心の病」の要因として注目されるのは?


レ·ハワード、グレートフォールズ、モンタナ州

野村 最近は、何かと国際化が叫ばれていますよね。これなどは、相当ストレスに感じている方が多いのです。協調性や奥ゆかしさなどを美とする日本的秩序の中で生きてきた人間が、自分の意見をはっきりいいなさい!なんて、西欧的な意識をいきなり求められたら、かなりのギャップに苦しむと思いませんか?

──確かに、国際化や機構改革というと、まず従来の良さを否定するところから始まります。中高年にうつ病が増えているというのは、このあたりにも大きな要因がありそうですね。

野村 それから、これは多くの症状にいえることですが、心の悩みが生じた時に、克服しようとがんばり過ぎてしま ったり、物事を深刻に受け止め過ぎてしまう人などは注意していただきたいですね。真面目な人ほど、深刻化する傾向がありますから。

──がんばるのも、程々にしなければなりませんね。

野村 ですがその一方で、「我慢する」「耐える」ことも心の悩みを克服するためには必要なんです。とにかく現代は、総体的に豊かで平和ですからね。それに伴って、つらいことに耐える力が落ちてしまっているようです。これも、心の悩みを増長させる要因です。

──忍耐、我慢は、必要だけれど、やり過ぎないように…ということですね。

ところで、最近よくマスコミなどでも取り上げられるようになったPTSDなどは、日常起こりえないショックにより心に後遺症が残ってしまう病気ですよね。これは、現代と昔 では変ってきているのでしょうか。

野村 PTSDが認知されるようになったのは、アメリカではベトナム戦争後、日本では阪神・淡路大震災後と、他の病に比べると最近のことです。

──昔はなかったのですか? 戦国時代や太平洋戦争当時などの方が、多いような気がするのですが…。

野村 おっしゃる通り、大変興味深いところですね。

確かに昔の人々も、災害や衝撃的な場面を目の当りにすることはありました。しかし、実のところ太平洋戦争当時のそうした症例を集めてみたら、想像していたよりも全然少なかったのです。


奴隷の子供たちが休憩を手に入れた

──それは意外ですね。

野村 PTSDでは、衝撃、ショックばかりに目が行きがちですが、実は日常というものの違いだと私は推測しています。先程もお話ししましたが、現代の日本はとても平和です。例えば同じ日本でも、戦国時代に生きた人と私達とでは、危機に対する意識は全然違うと思いませんか?

──なるほど。なんだか現代そのものが、心の病の温床のように思えてきました。

野村 そんなこと、おっしゃらないでください(笑)。

──ところで、現代を生きる我々が、心の病にかからないための予防策などはあるのでしょうか?

野村 最近は、ちょっと憂うつになると、すぐに専門家� �訪れる方が多いんです。もちろん我々としては嬉しい風潮ですが、一方で、もう少し自分で悩みを引き受けることも大事ではないかと思う部分もあります。

例えば昔は、地域の人々とのコミュニケーションなんかも今より活発でしたから、そこで解消されてきた悩みも結構あるんですよ。


切り離すことができない心と身体

──ところで、先生が始められた「心の悩み外来」は、名称も親しみやすく、精神医学への垣根を感じさせません。このように先生は、精神医学発展のために画期的な取組みをされていらっしゃいます。中でも、東京都郊外の病院に整備された「MPU」というシステムは、日本初の取組みだとか?

野村 すでに、アメリカでは随分整備されているもので、医学的な見地から心身ともに入院患者をケアするというシステムです。

──例えば、一つのところで内科と精神科の治療を受けられるとか?

野村 そうです。総合臨床医とでもいったら良いのでしょうか。例えば、癌と診断されてからうつ病になってしまったりとか、摂食障害の治療中に他の病気 にかかってしまったりなど、身体と心のつながりは密接です。その意味でも、身体管理、心の管理は完全に分けることができないのです。


──「それは○○科でないと分らないなぁ」なんてことがなくなるのですね(笑)。患者さんにとっては、随分安心感が増すのではないでしょうか。早急に全国で整備が進むといいですね。

野村 近く、茨城で2番目となる病院が開業すると聞いています。またその他にも、あちこちで整備されつつあるようです。総合臨床医の育成も急がねばなりません。

──ますますお忙しくなりそうですね。その他、今後の抱負などお聞かせいただけますか?

野村 今、防衛医大に勤務しておりますが、自衛隊員のPTSDやCISなどのストレス障害に対し、予防も含めて、治療法やシステム整備を急がなくてはならない、というのが一番の課題です。

それから研究者 としては、うつ病の病体の解明、治療法をもっと確固としたものにしたいですね。

──昔に比べ、ストレスが多様化している現代。精神医学に求められるニーズは、ますます増えてくると思います。我々としても努力をする一方で、先生方が進めてくださる研究やシステムの整備、構築に期待を強くしております。ご苦労が多いとは思いますが、ますますのご尽力をお願いします。

本日はありがとうございました。



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